「補助金が使えるので、ホームページを作り直したい」。商工会議所や金融機関からの紹介で始まる相談の多くが、この一言から始まります。補助率が高い制度なら自己負担は2割ほどで済み、使わない手はありません。ただ、採択されて公開した1年後に、そのホームページが止まっている会社も少なくありません。
この記事では、補助金でホームページや販促物を作る前に決めておくこと、申請書の「販路開拓計画」を採択後に本当に使える計画にする書き方、公開後の12か月をどう設計するかをまとめました。補助金案件の支援で見てきたことを、経営者だけでなく、紹介する側の金融機関・支援機関の担当者にも向けて書いています。
この記事の要点
- 補助金は「作る費用」を軽くする制度で、戦略の代わりにはならない。申請の前に、目的・相手・数字の3つを決める
- 販路開拓計画は、採択されるためではなく採択後に動かすために書く。効果は「売上○%増」ではなく「件数×単価」で置く
- 公開日は始まりの日。補助対象外の「動かす費用」と、公開後12か月の運用を先に決めておけば「作って終わり」は防げる
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補助金でつくる販促は、この5ステップで「作って終わり」にならない
1. 目的を1つに絞る
採用か、新規顧客か、既存顧客の単価か。欲張らない
2. 相手を決める
「誰に見てもらうか」を1人まで絞る。見せ方はここで決まる
3. 数字を件数で置く
問い合わせ・応募を年何件に。売上比率ではなく件数×単価
4. 計画を4段で書く
現状→課題→打ち手→効果。申請書の型のまま、使える計画にする
5. 公開後12か月を決める
動かす費用・更新の担当・入口との連携を、公開前に決めておく
補助金でホームページを作った会社が、1年後に止まっている理由
補助金そのものに問題があるわけではありません。制作費の大半を補助してもらえる制度は、中小企業にとってありがたいものです。止まる原因は、制度ではなく「作る前に決めていないこと」にあります。
「作ること」が目的になり、「誰に何を届けるか」が決まっていない
補助金の話が先にあると、順番が逆になります。本来は「採用を増やしたい」「新しい取引先がほしい」という目的があって、その手段としてホームページを作るはずです。ところが「補助金が出るから何か作ろう」と始まると、目的の部分が空白のまま制作が進みます。
目的が空白だと、制作会社は「会社案内」を作るしかありません。事業内容、沿革、会社概要、お問い合わせ。間違いはないけれど、誰に何を約束しているのか分からないサイトになります。問い合わせが来ないのは、見た目ではなくこの空白が原因です。
支援先の例:安く作ったホームページの実績欄が、ダミーのまま止まっていた
地方の工務店の相談で、既存のホームページを見せてもらったことがあります。数年前に低価格で外注したもので、見た目は整っていました。ただ、施工事例のページがサンプルの文章と写真のまま、スマホにも対応していません。「原稿を自分で書くことになっていたが、何を書けばいいか分からず止まった」とのことでした。
この会社の悩みは、近隣の案件までハウスメーカーに流れていることでした。ターゲットは30〜40代、決めるのは奥様。ここまで聞けば、載せるべきは沿革ではなく、水回りリフォームの事例と、女性が安心して相談できる雰囲気です。
原稿が書けなかったのは文章力の問題ではなく、「誰に向けて書くか」が決まっていなかったからです。
補助金のスケジュールが「作る」を急がせる
もう一つの原因は、制度の時間割です。補助金には申請の締切があり、採択後には事業完了の期限があります。公開の期日が先に決まるので、制作が「期限に間に合わせる作業」になり、「そもそも誰に見せたいのか」を考える時間は申請前にしか取れません。
申請の前に決めておく3つのこと:目的・相手・数字
申請前に決めるのは、たった3つです。何のために作るのか(目的)、誰に見てもらうのか(相手)、どれくらいを目指すのか(数字)。これが決まっていれば、販路開拓計画は自然に書け、制作会社への指示も迷いません。
目的は1つに絞る:採用か、新規顧客か、既存顧客の単価か
ホームページの目的は、大きく3つしかありません。人を採りたいのか、新しいお客様がほしいのか、今のお客様にもっと買ってもらいたいのか。欲張って3つとも載せると、トップページの一番目立つ場所に何を置くかで必ず揉め、結局「会社案内」に戻ります。
マーケター歴27年、100社以上の支援で見てきて、採用目的のホームページと集客目的のホームページは、作り方がまったく違います。採用なら社員の顔と仕事の中身、集客なら事例とお客様の声。両方やるとしても「主」と「従」を決めます。補助金の申請書には、主の目的だけを書けば十分です。
相手を1人まで絞る:見せ方はここで決まる
目的が決まったら、相手を1人の人物が浮かぶまで絞ります。「30〜40代で、リフォームを決めるのは奥様」「同業で5年以上の経験があり、今の会社に将来が見えない職人」。ここまで絞ると、写真の選び方も、文章の硬さも、載せる情報の順番も決まります。
設備会社の採用サイトを支援したとき、当初は「若手・未経験を採りたい」という話でした。ところが打ち合わせの中で教育に割ける人手がないと分かり、「経験者」に切り替えました。未経験向けなら研修や雰囲気、経験者向けなら裁量と条件と、載せる内容は大きく変わります。相手を決める作業は、制作前にしかできません。
数字は「件数」で置く:採択のためではなく、動かすために
3つ目は数字です。申請書には「売上10%増」といった目標を書きがちですが、これでは公開後に何をすればよいか分かりません。置くべきは、問い合わせを年何件、応募を年何人といった件数です。件数なら、公開後に毎月数えられ、足りなければ手を打てます。
件数は、売上から逆算すると決めやすくなります。1件の受注が平均いくらで、年にいくら増やしたいなら何件必要か。採用なら、1人採るために何人の応募が要るか。この逆算は、以前の記事「マーケティング予算はどう決めるか」で書いた考え方と同じで、補助金の計画も最後は件数と単価に落ちます。
「販路開拓計画」を、採択後に使える計画にする書き方
多くの補助金では、申請書に「販路開拓の取り組み」や「事業計画」を書く欄があります。採択されるためだけに書くと、採択された瞬間に役目を終える文書になります。申請書の型を守りながら、公開後も使える計画にする書き方を紹介します。
現状→課題→打ち手→効果の4段で書く
申請書の多くは、現状と課題、取り組みの内容、期待される効果の順で書く型になっています。これはそのままマーケティング計画の型です。「現状:紹介中心で新規が年数件」「課題:検討中の人が比べる場所がない」「打ち手:事例中心のホームページ」「効果:問い合わせ年12件」という具合です。
大切なのは、4段がつながっていることです。現状と課題に書いた相手と、打ち手で見せる内容と、効果の件数が、同じ一人の相手を向いているか。ずれている計画は、審査する側にも分かり、採択後も動きません。
効果は「件数×単価」で書く。「売上○%増」では動かせない
効果の欄に「売上5%増」と書いても、間違いではありません。ただ、公開後にその5%がホームページのおかげかどうかは誰にも分かりません。「問い合わせ年12件、うち受注4件、1件平均80万円で320万円」と書けば、毎月の問い合わせ件数を見るだけで、計画どおりかどうかが分かります。
この書き方なら、融資や経営改善の場面で問われる「売上の根拠」も件数と単価で示せます。補助金の申請書が、そのまま金融機関への説明資料になります。
補助対象外の「動かす費用」も計画に入れておく
補助金の対象になるのは、多くの場合「作る費用」です。公開後の更新、広告、写真の追加といった「動かす費用」は、対象外か上限が小さいことがほとんどです。ここを計画から外すと、公開した日が終わりの日になります。
自社の計画には「公開後1年間、月いくらを何に使うか」を必ず入れます。目安は、制作費と同じくらいの額を1年かけて使うことです。補助金で制作費が軽くなった分を、そのまま動かす費用に回す。この配分ができる会社が、補助金を一番うまく使っています。
補助金の制度側の事情を知っておく:期限・対象・自己負担
制度の細かな要件は年度や地域で変わるので、必ず最新の公募要領で確認してください。ここでは、どの制度にも共通する事情だけを書きます。
申請から公開まで:申請→採択→契約→完了→実績報告の流れ
多くの制度では、採択(交付決定)の前に発注したものは補助の対象になりません。申請書の作成に2〜3週間、採択の通知まで1〜2か月、そこから契約して制作、期限までに公開して実績報告、という流れです。支援先でも、申請に約3週間かけ、契約は採択後、公開は年内という段取りで進めた案件があります。
採択待ちの1〜2か月は手が止まり、採択後は期限に追われます。採択待ちの間に、相手の絞り込み、事例の棚卸し、写真の準備を進めておくと、採択後の制作が速くなり、内容も深くなります。
対象になるもの・ならないもの
ホームページ制作費、チラシやパンフレットの印刷、看板、展示会の出展料などは、多くの制度で対象です。一方で、広告費や更新費、サーバー代などの継続費用は対象外になることが多く、ウェブ関連の費用に上限を設ける制度もあります。「補助金で作れるもの」と「作りたいもの」は必ずしも一致しません。
支援先の廃棄物処理の会社では、ホームページは補助金で、会社パンフレットは自己負担で、と分けて進めました。補助金の枠を月額に分けて使い切っていたため、パンフレットまでは入らなかったのです。枠に合わせて「何を補助金で作り、何を自分で持つか」を先に決めておくと、後から揉めません。
支援先の例:補助率8割・上限50万円の枠を、月額に分けて使った形
その会社では、補助率8割・上限50万円、年度内に事業完了という制度を使いました。当社からの提案は、制作費を一括ではなく月5万円×6か月の形にすることです。制作だけでなく、公開後の写真の差し替えや求人ページの調整まで、期間内に含められるからです。
月額の形にすると「作りながら動かす」期間が生まれます。制度の範囲内でどこまでできるかは、申請前に支援機関や金融機関に確認する価値があります。
「作って終わり」を防ぐ運用設計:公開後の12か月を先に決める
最後の仕上げは、公開後の12か月を公開前に決めておくことです。難しいことではなく、3つの約束事を決めるだけです。
公開日は始まりの日:3か月・6か月・12か月でやること
公開後3か月は、検索にもほとんど出ません。この期間にやるのは、Googleビジネスプロフィールとの連携、Instagramや名刺からの導線づくり、問い合わせ対応の確認です。6か月で、どのページが見られ、どこから問い合わせが来たかを見て事例を足し、12か月で計画の件数と比べます。
社内に残すもの:写真・ネタ・更新の担当
制作や運用を外注しても、社内に残すものが3つあります。現場の写真、事例や近況といったネタ、そして「誰が月に1回見るか」という担当です。外注先に「全部お任せ」でも、写真とネタだけは社内からしか出てきません。
先ほどの廃棄物処理の会社では、SNSに明るい20代の社員が「任せてください」と手を挙げ、公開後の引き継ぎ先になりました。担当は専任である必要はありません。月に1回、写真を送る人が決まっているだけで、ホームページは止まらなくなります。
ホームページは「受け皿」。入口とセットで考える
ホームページは、それ自体が人を連れてくる装置ではありません。検索、Googleマップ、Instagram、求人媒体、紹介、名刺といった入口から来た人が、会社を確かめるための受け皿です。受け皿を整えたら、次はどの入口を太くするかを決めます。
採用なら求人媒体と社員の紹介、地域の集客ならGoogleビジネスプロフィールとInstagram、BtoBなら営業資料と展示会。受け皿だけ立派で入口がない状態は、補助金案件で最も多い「作って終わり」の形です。
金融機関・支援機関の担当者に伝えたいこと
補助金を使ったホームページ制作は、金融機関や商工会議所の紹介で始まることが多く、当社の支援先もその例が大半です。紹介する側の担当者が最初に何を確認するかで、その後の1年が変わります。
紹介で始まる案件ほど、「目的」の確認が要る
支援先の設備会社では、金融機関が採用を手伝う中で「ホームページがないと応募者が会社を見られない」という理由から制作が始まりました。きっかけとして自然ですし、実際に必要でした。ただ、経営者に明確な構想があって始まった話ではないので、目的と相手を決める作業は、こちらから持ちかける必要がありました。
紹介する担当者が「何のために作るのか」「誰に見せたいのか」を一言聞いておくだけで、制作会社との最初の打ち合わせが変わります。答えが出てこなければ、それこそが支援の入口です。
計画の売上根拠は「件数×単価」で聞く
経営改善計画や融資の相談で「売上が上がる根拠」を求めるとき、「ホームページを作るので」では弱いはずです。聞き方を変えると答えが出ます。「問い合わせが月何件来れば年の目標に届きますか」「1件の受注は平均いくらですか」。この2つが答えられれば、計画は根拠を持ちます。
答えられない場合は、ホームページの前に決めることがある、ということです。そこを一緒に決めるのが、当社のような外部の役割だと考えています。紹介元からの紹介手数料はいただいていません。取引先の売上が動くことが、紹介した担当者の成果だと思うからです。
制作会社選びで見るのは、見積もりではなく「公開後の話をするか」
補助金案件では、複数の制作会社から見積もりを取ることが多くあります。金額とページ数で比べがちですが、見るべきは初回の打ち合わせで「公開後」の話が出るかどうかです。更新は誰がするのか、写真はどう集めるのか、3か月後に何を見るのか。この話が出ない会社は、公開日で仕事が終わります。
当社がサーバー代込み・保守費ゼロ円で提案しているのは、公開後の費用の壁を低くして「動かす費用」に回してもらうためです。1年後も動いているかどうかは、制作の質より、公開前にこの話をしたかどうかで決まります。
補助金の申請を考えているなら、申請書を書く前に、目的・相手・数字の3つを紙に書いてみてください。埋まっていれば販路開拓計画は自然に書けますし、公開後の12か月も見えてきます。埋まらないなら、埋めるところから一緒に考えます。
よくある質問
補助金でホームページを作ると、費用はどのくらい軽くなりますか?
制度によって異なりますが、補助率は2分の1〜3分の2が多く、自治体や支援機関の制度では8割のものもあります。上限額も50万円程度から数百万円まで幅があります。ただし、補助の対象は「作る費用」が中心で、公開後の更新や広告などの「動かす費用」は対象外か上限が小さいことがほとんどです。自己負担が軽くなった分を、公開後の運用に回す前提で計画を立ててください。制度の要件は年度で変わるので、必ず最新の公募要領で確認してください。
小規模事業者持続化補助金で、ホームページ制作はできますか?
近年の公募では、ホームページなどのウェブサイト関連費は販路開拓の取り組みの一部として認められていますが、ウェブサイト関連費だけでの申請はできず、補助額の中で上限が設けられています。チラシや看板、展示会など他の取り組みと組み合わせて、全体の販路開拓計画の中に位置づける必要があります。制度の詳細は公募回ごとに変わるため、申請前に商工会議所・商工会の担当者と最新の公募要領を確認してください。
申請書の販路開拓計画は、誰が書くべきですか?
中身は経営者が決め、形にするのは外部に頼んでも構いません。決めるべきは、目的(採用・新規顧客・既存顧客の単価のどれか)、相手(誰に見てもらうか)、数字(問い合わせや応募を年何件か)の3つです。この3つが経営者の言葉で出ていれば、現状→課題→打ち手→効果の4段に整える作業は、支援機関や当社のような外部が手伝えます。逆に、外部が目的から考えて書いた計画は、採択後に経営者が動かせません。
補助金が採択されなかった場合、ホームページ制作はやめるべきですか?
目的・相手・数字が決まっていて、件数×単価で回収の見込みが立つなら、補助金がなくても進める価値があります。補助金は費用を軽くする制度で、やるかどうかの判断基準ではありません。一方、「補助金が出るなら作ろう」という動機だけで始めていた場合は、不採択をきっかけに、そもそも何のために作るのかを決め直す機会にしてください。次の公募回に向けて、計画を練り直す時間にもなります。
公開後の運用費が出せない場合、どうすればいいですか?
お金をかけずにできることから決めてください。Googleビジネスプロフィールの登録と写真の追加、名刺や請求書にURLを載せる、月に1回現場の写真を1枚足す、といったことは費用がかかりません。「誰が月1回見るか」という担当を決めるだけでも、ホームページは止まらなくなります。そのうえで、制作費と同じくらいの額を1年かけて「動かす費用」に使えると、補助金で作ったものが回収に向かいます。
補助金の申請書を書く前に、目的・相手・数字を一緒に決めませんか。
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