新規事業のマーケティング|中小企業が小さく試して確かめる進め方と撤退基準

「新しい事業を始めたので、売り方を考えてほしい」。この順番で来る相談が、当社にはとても多いです。商品やサービスはすでに出来上がり、ホームページもパンフレットも作ってある。あとは誰に、どう売るかだけが決まっていない、という状態です。

この記事では、中小企業が新規事業を「小さく試して確かめる」ための進め方を、5つのステップにまとめました。事業会社でブランドマネージャーとして新商品を出していた側と、独立後に100社以上の支援先で見てきた側、両方の経験をもとに書いています。

この記事の要点

  • 新規事業の失敗の多くは、商品の良し悪しではなく「作ってから顧客を探す」順番にある。仮説を1枚に書くことが最初の仕事
  • 作り切る前に、売れる形で小さく出す。最初の10社は広告ではなく、既存の顧客と紹介元から連れてくる
  • 見る数字は商談化率・受注率・紹介の3つ。続ける・直す・やめるの基準と期限を、始める前に決めておく

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新規事業のマーケティングは、この5ステップで「確かめながら」進む

1. 仮説を1枚にする

誰の・どの困りごとを・いくらで解決するかを、A4一枚に書く

2. 作り切らずに出す

業種・地域・商品を絞り、受注できる最小の形で出す

3. 最初の10社に売る

既存顧客と紹介元から。広告はまだ使わない

4. 数字と言葉で確かめる

商談化率・受注率・紹介の3つと、買わなかった理由を記録する

5. 期限で決める

続ける・直す・やめるの基準を、始める前に数字で決めておく

目次

新規事業のマーケティングが「作ってから」始まると、何が起きるか

新規事業の相談で当社が最初に確認するのは、商品の内容ではなく「誰が、いくらで買うと決めたのか」です。ここが決まっていない事業は、どれだけ売り方を工夫しても動きません。

商品が先、顧客が後になる構造

中小企業の新規事業は、代表や現場の「これは良いものだ」という確信から始まることがほとんどです。それ自体は悪くありません。問題は、その確信のまま商品を作り切り、設備や在庫や人を先に抱えてしまうことです。

作り切った後に顧客を探し始めると、顧客の反応に合わせて商品を直す余地がなくなります。「この価格では高い」と言われても下げられず、「この機能は要らない」と言われても削れない。マーケティングの仕事が、売れないものを売る仕事になってしまいます。

本業の顧客と、新規事業の顧客は別人である

もう一つよくあるのが、「本業のお客様に案内すれば売れる」という前提です。実際には、本業で買ってくれている理由と、新規事業で買う理由は別のものです。既存顧客は最初の相手として最適ですが、全員が買うわけではありません。

たとえば、設備工事の会社が始めた省エネ診断を既存の工事顧客に案内しても、反応するのは「光熱費に困っている一部の会社」だけです。新規事業には新規事業の顧客像があり、それを言葉にするところから始めないと、営業も発信も焦点が合いません。

「小さく試す」とは規模の話ではなく、順番の話

小さく試すというと、予算を抑えることだと受け取られがちです。本当の意味は、「作る→売る→確かめる」の順番を「仮説→売る→確かめる→作る」に入れ替えることです。投資額が小さくても、作り切ってから売り始めれば、それは小さく試したことになりません。

マーケター歴27年の経験で言えば、新規事業が動くかどうかは、最初の3か月でほぼ見えます。その3か月を「作る」に使うか「確かめる」に使うかで、1年後の姿が変わります。

ステップ1・2:仮説を1枚にして、作り切る前に売れる形にする

最初の2つのステップは、机の上でできます。費用はほとんどかかりませんが、ここを飛ばすと後の全部が曖昧になります。

「誰の・どの困りごとを・いくらで」をA4一枚に書く

仮説は、A4一枚で足ります。書くのは3行です。誰の(業種・規模・地域・立場)、どの困りごとを(今は何で我慢しているか)、いくらで(価格と、顧客がそれを何と比べるか)。この3行が書けない事業は、まだ売る段階にありません。

書くときのコツは、「中小企業全般」のような広い言葉を禁じることです。「従業員10人前後の工務店で、年に数件の受注を増やしたい社長」まで絞って初めて、その人がどこにいて、何を読んでいて、誰の紹介なら話を聞くかが見えてきます。

価格は最初に決める。後から上げるのは難しい

価格を「様子を見て決める」のは勧めません。新規事業では最初に売った価格がその後の相場になり、安く始めた事業を後から値上げするのは、ほとんどの場合うまく行きません。最初から、本気で売るつもりの価格で出してください。

価格は原価から積み上げるのではなく、「顧客が今、同じ困りごとに何を払っているか」から決めます。今は自分でやっている、他社に月いくら払っている、放置して損をしている。その比較対象より少し安いか、少し高くてもはっきり良いか。どちらかに置くと、説明が簡単になります。

作り切らずに出す方法:業種を絞る、受注生産にする、見本を架空で作る

商品を完成させる前に売るには、範囲を絞ります。全業種向けのサービスをまず1〜2業種に限定する、在庫を持たず注文を受けてから作る、見本が必要なら架空の会社を想定して作る。こうすると、顧客の反応を見てから本体を固められます。

当社でも最近、小さな新しいサービスを立ち上げました。やったのは、対象業種を実績のある数業種に絞ること、見本を架空の会社名で作ること、営業先を日頃の紹介元に限ることの3つです。全業種向けの体裁を整えるより、1業種で商談が1回で決まる型を作るほうが、先に進みます。

ステップ3:最初の10社をどこから連れてくるか

仮説と売れる形ができたら、売ります。ここで広告やSNSに手を出すのは早すぎます。最初の10社は、もっと近いところにいます。

既存顧客と紹介元が、最初の市場になる

最初の顧客候補は、すでに取引がある会社と、これまで仕事を紹介してくれた人です。取引先は御社を信用した上で話を聞いてくれるので、商品の良し悪しだけを確かめられます。紹介元は、「誰がこれを欲しがるか」を御社より知っていることがあります。

金融機関や商工会議所、士業など、日頃の紹介元に先に話しておくのは有効です。彼らは取引先の困りごとを日常的に聞いており、「ちょうどそういう相談があった」という形で最初の商談が生まれることが少なくありません。

広告より先に「直接話せる相手」に売る理由

広告は、仮説が合っているときには強力ですが、仮説が間違っているときには何も教えてくれません。クリックされない理由が、価格なのか、言葉なのか、相手が違うのか、分からないからです。最初の10社は、断られた理由を直接聞ける相手に売る必要があります。

10社に話して、商談になったのが何社、受注したのが何社。この数字と、断られたときの言葉が、次に直すべき場所を教えてくれます。この段階で広告費を使うのは、まだ地図がないのに車を飛ばすようなものです。

農業法人の例:新しい需要は、既存の顧客の中にあった

柑橘を作る農業法人の支援先では、法人向けの卸という販路を広げたい、という相談でした。話を聞くと、お礼に贈った先の会社が「会社の贈答用に使いたい」と言い出し、そこから贈答の需要が生まれていたことが分かりました。新しい市場は、すでに手元にあったのです。

当社が提案したのは、その需要を「たまたま」から「商品」に変えることでした。誰が、どんな場面で、いくらで贈っているかを言葉にし、同じ場面を持つ会社に提案できる形にする。代表の所感として、新規事業の最初の顧客は、探すよりも「すでに買っている人を見つける」ほうが早いことが多いです。

ステップ4:数字と言葉で確かめる。見るべき指標は3つ

売り始めたら、手応えではなく数字で見ます。ただし、見る数字が多すぎると判断できません。最初の3か月で見るのは、3つで十分です。

商談化率・受注率・紹介の3つで見る

一つ目は商談化率です。話をした相手のうち、詳しく聞きたいと言った割合。二つ目は受注率で、商談のうち買った割合。三つ目は紹介で、買った顧客が次の顧客を連れてきたか、または継続したかです。

目安を置くなら、10社に話して3社が商談になり、1社が買えば、仮説はおおむね合っています。商談にならないなら相手か言葉が違い、商談になるのに買われないなら価格か商品が違う。買われるのに紹介も継続もないなら、満足度に問題があります。数字の組み合わせで、直す場所が決まります。

「買わなかった理由」を聞く設計をしておく

買った理由より、買わなかった理由のほうが多くを教えてくれます。ただ、断られた後に理由を聞くのは気まずいので、最初から「この段階ではご意見をいただくのが目的です」と伝えておきます。すると相手は率直に話してくれますし、断ることへの抵抗も減ります。

聞いた言葉は、そのまま書き留めます。「今は困っていない」「上に説明できない」「値段の根拠が分からない」。こうした言葉は、次の商談の資料に、そのまま答えとして組み込めます。顧客の言葉で書き直した資料は、社内で考えた言葉より必ず伝わります。

事業会社で見た「社内で盛り上がる新商品」の罠

代表が事業会社でブランドマネージャーをしていた頃、社内の評価が高い新商品ほど、市場に出すと苦戦することがありました。社内の人間は商品の背景を全部知っているので、良さが分かります。顧客はその背景を知らないまま、棚の前で数秒で判断します。

中小企業の新規事業でも、同じことが起きます。代表と社員が「これは良い」と思うほど、顧客の反応の鈍さを「まだ知られていないだけ」と解釈しがちです。数字と顧客の言葉を先に置いておくのは、この解釈を防ぐためです。

ステップ5:続ける・直す・やめるを、期限で決める

新規事業で一番難しいのは、始めることではなく、やめることです。やめる基準がないと、本業の利益を少しずつ削りながら、何年も「もう少し」が続きます。

撤退基準は、始める前に決める

撤退の基準は、始める前に決めてください。始めた後は、かけた時間とお金が判断を曇らせます。基準は、期限と数字の組み合わせにします。「6か月で受注5件に届かなければ、形を変えるかやめる」のように、誰が見ても判定できる形です。

基準を決めるのは、やめるためだけではありません。基準があると、途中で「まだ続けていい」と胸を張って言えます。周囲が不安がっても、数字が基準に向かっていれば続けられる。撤退基準は、続けるための基準でもあります。

「直す」の順番:相手→言葉→価格→商品

数字が基準に届かないとき、すぐに商品を作り直すのは避けてください。直す順番は、相手、言葉、価格、商品です。相手を変える(別の業種、別の立場の人に売る)のが一番安く、商品を変えるのが一番高くつきます。

多くの場合、相手と言葉を直すだけで数字は動きます。同じサービスを「経営者向け」から「総務の担当者向け」に言い換えただけで、商談化率が変わることは珍しくありません。商品に手を入れるのは、相手と言葉と価格を試した後にしてください。

補助金や金融機関と組むときは、計画書の売上根拠をこの数字で作る

新規事業は、補助金や融資と一緒に動くことが多いものです。その計画書に書く売上の根拠を、「市場規模の何%」ではなく、この記事の数字で作ってください。何社に話して、何社が商談になり、何社が買ったか。実際に試した数字は、審査する側にも伝わります。

金融機関の担当者にとっても、「試して確かめた結果」がある計画は、融資後の伴走がしやすいものです。小さく試すことは、資金調達の説得力を上げる手段でもあります。補助金を使う場合の計画の立て方については、別の記事で詳しく書いています。

中小企業が新規事業を小さく試すときの体制と、外部の使い方

最後に、誰がやるかの話です。新規事業は、担当者を置いた瞬間に本業と切り離され、動かなくなることがあります。

最初の10社は、代表が自分で売る

最初の10社に売るのは、代表自身であるべきです。価格を変える、商品を削る、相手を変える。こうした判断をその場でできるのは代表だけで、担当者に任せると「持ち帰って検討します」の往復で3か月が過ぎます。

ただし、期限は決めてください。「最初の3か月、週に半日」のように枠を決め、その間に10社と話す。この枠を超えて代表が張り付くと、本業が痩せます。3か月で見えたことをもとに、続けるなら担当者に型を渡し、代表は判断の役割に戻ります。

外部に頼むなら「言語化」と「最初の導線づくり」

外部のマーケターに頼む価値があるのは、仮説の言語化と、最初の10社への導線づくりです。社内の人間は商品に近すぎて、顧客の言葉で書けません。また、紹介元や既存顧客への最初の話の持っていき方は、経験の差が出るところです。

逆に、この段階で広告運用やホームページ制作を丸ごと頼むのは早すぎます。仮説が固まる前に作ったものは、3か月後に作り直しになります。当社が新規事業の支援で最初にやるのも、立派な資料を作ることではなく、1枚の仮説と最初の10社のリストを一緒に作ることです。

本業を痩せさせない配分

新規事業にかけられる資源は、人も時間もお金も、本業の余力の範囲です。目安として、代表の時間なら週の1〜2割、お金なら本業の利益の範囲で、失っても事業が傾かない額に収めてください。この範囲で確かめられない事業は、まだ始める時期ではありません。

小さく試して確かめる進め方は、慎重に見えて、実は一番早い進め方です。作り切ってから売れないと分かるより、3か月で直す場所が分かるほうが、はるかに先に進めます。御社の新規事業がどの段階にあるか、1枚の仮説から一緒に整理することもできますので、お気軽にご相談ください。

よくある質問

新規事業のマーケティングは、いくらくらいから始められますか?

最初の3か月は、ほとんど費用がかかりません。仮説をA4一枚に書き、既存の顧客や紹介元に直接話して回る段階なので、必要なのは代表の時間と、説明に使う1〜2枚の資料程度です。広告やホームページに費用をかけるのは、10社に話して商談化率と受注率が見えてからで十分です。当社が支援する場合も、この段階は仮説の言語化と最初の導線づくりが中心で、制作や広告の費用は後に回します。

何社くらいに話せば、判断できますか?

目安は10社です。10社に話して3社が商談になり、1社が買えば、仮説はおおむね合っていると判断できます。業種や単価によって前後しますが、10社に話す前に方向を変えるのは早すぎ、30社に話しても1社も商談にならなければ、相手か言葉が違うと考えて見直します。期間としては3か月を一区切りにし、その時点の数字と顧客の言葉で、続ける・直す・やめるを決めてください。

最初は安く売って、後から値上げしてもいいですか?

勧めません。新規事業では、最初に売った価格がその後の相場になり、後からの値上げはほとんどの場合うまく行きません。最初から本気で売るつもりの価格で出してください。どうしても試験的に安くする場合は、「モニター価格」のように期間と条件を明示し、正規の価格も同時に伝えておきます。価格は原価の積み上げではなく、顧客が今その困りごとに払っている金額との比較で決めると、説明もしやすくなります。

本業の顧客に新規事業を案内するのは、迷惑になりませんか?

「ご意見をいただきたい」という形で案内すれば、迷惑になることはほとんどありません。むしろ既存の顧客は、御社を信用している分、率直な意見を言ってくれる貴重な相手です。注意点は、全員が買うと期待しないことと、売り込みにならないよう断りやすい伝え方にすることです。本業の信頼を損なわないよう、新規事業の品質に自信が持てる範囲で案内し、反応のあった顧客から丁寧に進めてください。

撤退の判断は、どう決めればいいですか?

始める前に、期限と数字で基準を決めておくことです。「6か月で受注5件」のように、誰が見ても判定できる形にします。基準に届かないときは、すぐにやめるのではなく、相手、言葉、価格、商品の順に直して、もう一区切り試します。それでも動かなければ、本業の利益を削る前にやめる判断をしてください。撤退基準は、やめるためだけでなく、周囲が不安がっても数字が基準に向かっていれば続けられる、続けるための基準でもあります。

新規事業を「作ってから」ではなく、「確かめながら」進めるために。

仮説の言語化、価格の設計、最初の10社への導線づくりまで、Practical Marketingが調べて、考えて、提案します。
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