「融資は出せる。でも、この会社の売上をどう増やすかまでは、正直分からない」。地域金融機関の担当者から、そんな言葉を聞くことが増えました。本業支援が求められる一方で、取引先の「売り方」に踏み込む手段は、人材紹介や補助金の案内で止まりがちです。
この記事では、金融機関の本業支援にマーケティングを組み込むとき、担当者が何を決め、外部のマーケターとどう組めばよいかをまとめました。経営改善計画の売上根拠を件数×単価で作る方法、面談で外部に聞くべきこと、事業承継後の売上づくりまで、金融機関の紹介で始まった支援先の例を交えて書いています。
この記事の要点
- 金融機関の本業支援が「紹介して終わり」になるのは、取引先の課題が売上の言葉に翻訳されていないから。最初に決めるのは商品・相手・入口の3つ
- 経営改善計画の売上根拠は「売上○%増」ではなく「件数×単価」で置く。月1回、担当者が見る数字を先に決めておくと、計画が動く
- 外部マーケターとは、紹介→同席→伴走の3段階で組む。選ぶときは「作る提案か、動かす提案か」「紹介手数料の有無」「報告の形」を面談で聞く
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金融機関の本業支援にマーケティングを組み込む5ステップ
1. 課題を売上の言葉にする
「人が足りない」「HPがない」を、どの売上がいくら足りないかに翻訳する
2. 商品・相手・入口を決める
何が選ばれている理由か、誰に売るか、その相手とどこで出会うか
3. 根拠を件数×単価で置く
経営改善計画の売上を、月に数えられる件数に落とす
4. 役割を分けて動かす
金融機関は数字と資金、マーケターは施策、経営者は判断
5. 月1回、同じ数字を見る
担当者が異動しても引き継げる形で、計画と実績を並べる
「本業支援」で売上に踏み込むとき、金融機関の担当者は何に困るのか
事業性評価や本業支援という言葉が定着して、金融機関の担当者が取引先の経営に踏み込む場面は確実に増えています。ただ、現場で話を聞くと、「売上をどう増やすか」の部分だけは、手持ちの道具が少ないままです。
融資の審査はできても、「どう売るか」は別の専門
金融機関の担当者は、決算書を読み、資金繰りを見て、返済の見通しを立てる専門家です。一方で、取引先の商品が誰にどう選ばれているか、どの入口から新しい客が来ているかは、決算書には書いてありません。売上の「中身」を見る技術は、融資の技術とは別物です。
だから本業支援のメニューは、人材紹介、補助金の案内、ビジネスマッチング、事業承継の相談といった「つなぐ」ものが中心になります。どれも必要です。ただ、つないだ先で売上が動くかどうかは、相手の会社の売り方次第になります。
支援先の例:銀行の採用支援から始まったホームページ制作
地方の設備会社を支援したときの話です。きっかけは、取引先の金融機関が採用を手伝っていたことでした。「求人を出しても、ホームページがないと応募者が会社を見られない」。そこで補助金の申請を金融機関が主導し、制作の相談が当社に来ました。
入口としては自然で、実際に必要な仕事でした。ただ、経営者に明確な構想があって始まった話ではありません。誰を採りたいのか、採ったあとに売上をどう作るのかは、打ち合わせの中でこちらから持ちかけて決めていきました。
金融機関がつないでくれたからこそ始まった案件です。同時に、つないだ先で「売上の話」をする人がいなければ、作って終わりになっていたとも思います。
担当者の異動と、「紹介して終わり」になる構造
もう一つの難しさは、担当者が数年で異動することです。本業支援は関係の積み重ねで成り立ちますが、引き継ぎの書類に「この会社の売り方」まで書かれていることはまれです。紹介した外部の会社が何をしていて、どの数字を見ればよいかが残っていないと、支援は担当者の異動で途切れます。
この記事で書く「件数×単価の根拠」と「月1回見る数字」は、異動しても引き継げる形にするための工夫でもあります。
売上を動かす伴走は、「商品・相手・入口」を決めることから始まる
取引先の売上に踏み込むとき、最初にやるのは施策の提案ではありません。経営者と一緒に、3つのことを言葉にします。何が選ばれている理由か(商品)、誰に売るか(相手)、その相手とどこで出会うか(入口)です。この3つが決まると、施策は自然に絞られます。
商品:何を売るかではなく、「何が選ばれている理由か」を言葉にする
マーケター歴27年、100社以上を支援してきて、経営者が自社の強みを言葉にできている会社はむしろ少数です。地方の果樹農園の経営者は、初回の面談で「自分たちの良さを自分たちが分かっていない」と言いました。生産力は上がったのに、販売の開拓が遅れている感覚があったそうです。
この農園では、お礼に贈った果物を受け取った会社が「社用の贈答に使いたい」と言い出し、注文が生まれていました。経営者にとっては偶然の出来事でしたが、第三者が見れば「法人の贈答用に選ばれている」という立派な理由です。選ばれている理由は、すでに起きていることの中にあります。
相手:誰に売るかを、1社・1人まで絞る
選ばれている理由が分かれば、相手は絞れます。農園なら「取引先への贈答に使う、従業員数十人の会社」。設備会社なら「大手食品会社の倉庫を元請から請ける、同業の経験者」。ここまで絞ると、営業資料の中身も、ホームページに載せる写真も、迷わなくなります。
金融機関の担当者は、この「相手」を決める場面で大きな力を持っています。取引先の中に、その相手に当たる会社がいるからです。相手が具体的なら、ビジネスマッチングも「誰でもいいから紹介する」ではなく、狙った紹介になります。
入口:その相手が、どこで会社と出会うか
相手が決まったら、その人がどこで会社を知るかを決めます。法人の贈答なら営業資料と紹介、地域の個人客ならGoogleマップと口コミ、採用なら求人媒体と社員の紹介。入口によって、作るものと費用がまったく変わります。
「ホームページがない」「SNSをやっていない」という課題の多くは、この順番を飛ばしています。ホームページは、入口から来た人が会社を確かめる受け皿です。受け皿だけ整えて入口がない状態は、金融機関の紹介で始まった案件で最も多い「作って終わり」の形です。
経営改善計画の「売上根拠」を、件数×単価で作る
本業支援でマーケティングが一番効くのは、経営改善計画や事業計画の「売上」の欄です。金融機関にとって最も気になり、最も根拠が薄くなりやすい場所だからです。
「売上5%増」の計画が動かない理由
計画書の売上が「前年比105%」で、根拠が「営業強化」や「ホームページ刷新」だけ、という場面を何度も見てきました。この書き方では、半年後に計画どおりかどうかを誰も判断できません。売上は結果であって、途中で手を打てる数字ではないからです。
動かせる計画は、売上を「件数×単価」に分けて書いてあります。新規の取引先を年に何社、1社あたりいくら。問い合わせを月に何件、受注率何%、1件平均いくら。件数なら毎月数えられ、足りなければその月のうちに手を打てます。
支援先の例:法人1社の開拓=約50万円、年1社ずつ積み上げる計画
先ほどの果樹農園では、経営者の目標がはっきりしていました。「法人の取引先を1社開拓すると年に約50万円。それを毎年1社ずつ積み上げたい」。急拡大は望まず、オペレーションが追いつく範囲で前年比2割ほどの成長を続けたい、という考えです。
この目標は、そのまま計画の根拠になります。年1社×50万円という件数と単価があり、相手(贈答に使う法人)と入口(営業資料と紹介)が決まっている。金融機関の担当者が見るべきは、売上の合計ではなく「今年の1社が決まったか」という1行です。
一方で、この経営者は収穫期に営業ができません。計画には「営業する時期」も書く必要があります。マーケティングの伴走とは、こうした現場の制約を計画に織り込む作業でもあります。
月1回、金融機関の担当者が見る数字を決めておく
件数×単価で計画ができたら、金融機関の担当者が月1回見る数字を1つか2つに決めます。新規取引先の商談数、問い合わせ件数、応募者数など、売上より手前の数字です。経営者に「調子はどうですか」と聞く代わりに、「今月の問い合わせは何件でしたか」と聞けるようになります。
この数字は、担当者が異動しても引き継げます。計画と実績を並べた1枚があれば、次の担当者は最初の訪問から売上の話ができます。
外部マーケターと組む形:紹介・同席・伴走の3段階
売上の中身を見る技術は、金融機関の中に置かなくても構いません。外部のマーケターと組めば済みます。ただ、組み方には段階があり、「紹介」で止まると先ほどの「作って終わり」が起きます。
紹介だけで終わらせない:最初の面談に同席する
一番簡単な組み方は、取引先に外部の会社を紹介することです。ただ、紹介した後の最初の面談に担当者が同席するかどうかで、その後が大きく変わります。同席すれば、経営者が外部に何を話し、外部が何を聞いたかが分かります。売上の根拠を計画に書くとき、その内容がそのまま使えます。
当社の支援先でも、金融機関の担当者が初回に同席した案件は、その後の報告が担当者にも届く形になり、計画と施策がずれません。同席は1時間で済みます。その1時間が、半年分の行き違いを防ぎます。
伴走の役割分担:金融機関は数字と資金、マーケターは施策、経営者は判断
伴走が始まったら、役割を3つに分けます。金融機関は計画の数字と資金面を見る、マーケターは商品・相手・入口を決めて施策を作って動かす、経営者は月1回の打ち合わせで判断する。この分け方なら、誰も自分の専門外を抱え込みません。
当社が「御社の宿題はつくらない」委託型で進めているのは、経営者の時間が一番の制約だからです。果樹農園も設備会社も、経営者は現場で手一杯でした。調べて、考えて、作るところまでを外部が引き受け、経営者には判断だけをお願いする。金融機関の担当者には、その判断の場に同席してもらう形が合っています。
費用の持ち方:補助金・経営改善計画・顧問契約
外部の費用は、3つのどれかで持つことになります。補助金で「作る費用」を軽くする、経営改善計画の中に「動かす費用」として組み込む、顧問契約で月額に分ける。支援先の工務店では、金融機関の紹介と申請サポートで補助金を使い、月5万円の枠に収める形で進めました。
どの形でも大切なのは、公開後や納品後の「動かす費用」を先に計画に入れておくことです。補助金で作ったものを動かす費用が計画に無いと、半年後に止まります。詳しくは「補助金でホームページを作る前に決めること」に書きました。
外部マーケターの選び方:担当者が面談で聞くべき3つのこと
金融機関の担当者が外部を選ぶとき、実績の社数や資料の立派さで比べがちです。見るべきはそこではなく、最初の面談での聞き方と、提案の向きです。
「御社の商品は、何が選ばれている理由ですか」と最初に聞くか
良い外部は、最初の面談で施策の話をしません。何が選ばれている理由か、誰が買っているか、どこから来ているかを聞きます。逆に、初回から「ホームページを作りましょう」「SNSを始めましょう」と手段の話をする会社は、どの取引先にも同じ提案をしています。
担当者が同席していれば、この違いは一目で分かります。経営者が答えに詰まる質問をする外部ほど、売上の中身を見ています。
作る提案か、動かす提案か
提案書を受け取ったら、納品物の一覧より「納品後に何をするか」を見てください。公開後に誰が何を数え、3か月後に何を見直すかが書いてあれば、動かす提案です。ページ数や投稿本数だけなら、作る提案です。作る提案は納品日で終わり、動かす提案は納品日から始まります。
事業会社でブランドマネージャーとして発注する側にいた経験から言えば、作る提案の方が見積もりは分かりやすく、比べやすい。だからこそ選ばれやすいのですが、売上が動くのは後者です。
紹介手数料の有無と、報告の形
金融機関や支援機関からの紹介で、外部が紹介元に手数料を払う形は珍しくありません。当社は、紹介元からの紹介手数料をいただいていません。取引先の売上が動くことが、紹介した担当者の成果になるべきだと考えるからです。手数料の有無は、面談で率直に聞いてよい質問です。
もう一つは報告の形です。経営者だけに報告するのか、金融機関の担当者にも同じ数字が届くのか。月1回の数字が担当者にも届く形なら、本業支援として追い続けられます。
事業承継・M&A後の売上づくりに、マーケティングが要る理由
本業支援の中で、金融機関の関与が最も深いのが事業承継とM&Aです。資金と手続きの支援は手厚い一方で、承継した後の売上づくりは、経営者と現場に任されがちです。
承継後に顧客が離れるのは、商品ではなく「関係」が変わるから
承継やM&Aの後に売上が落ちるとき、商品やサービスが変わったわけではありません。変わったのは、先代と顧客の関係です。長年の付き合いで選ばれていた理由が、新しい経営者には引き継がれていない。だから「何が選ばれている理由か」を言葉にする作業が、承継後ほど必要になります。
支援先の工務店は、先代から義理の息子が承継した会社でした。集客は口コミと紹介が中心で、近隣の案件までハウスメーカーに流れている。承継前は「先代を知っている人」が選んでいたものが、承継後は選ぶ理由を新しく作らなければならない状態でした。
支援先の例:M&Aで取得した会社の採用と売上を、受け皿から立て直す
冒頭の設備会社は、経営者が前年にM&Aで取得した会社でした。職人は65歳以上のみで、若手の採用が急務。経営は黒字で元請との関係も深い。つまり「選ばれている理由」は現場にあるのに、それを外に見せるものが何もない状態でした。
ここでやったのは、元請との深い関係と、民間案件が大半という事実を、経験者の職人に向けて見せることです。採用方針も、打ち合わせの中で「若手・未経験」から「経験者」に切り替えました。教育に割ける人手がないという現場の制約を、計画に織り込んだ結果です。
M&Aの資金を支援した金融機関にとって、取得後に会社が回り続けるかどうかは、融資の回収そのものです。採用と売上の受け皿づくりは、融資の後工程として組み込む価値があります。
金融機関の担当者に伝えたいこと
取引先の売上に踏み込むのに、担当者がマーケティングの専門家になる必要はありません。必要なのは、「何が選ばれている理由ですか」「問い合わせは月に何件ですか」「1件いくらですか」という3つの質問と、答えが出てこなかったときに組める外部です。
当社は、中小企業と地方の事業者を応援することで、日本全体をマーケティングで良くしていきたいと考えています。地域金融機関の本業支援は、そのための一番太い入口です。取引先の面談に同席するところからでも、セミナーで担当者の方々に話すところからでも、一緒に始められます。
よくある質問
金融機関の本業支援で、マーケティングはどこまで踏み込むべきですか?
担当者自身が施策を考える必要はありません。踏み込むのは「売上の根拠」までで十分です。取引先の商品が何で選ばれているか、誰に売るか、その相手とどこで出会うかの3つを経営者と確認し、計画の売上を件数×単価で置く。施策を作って動かす部分は外部のマーケターと組み、担当者は月1回の数字を一緒に見る形が、金融機関の本業支援として無理なく続きます。
経営改善計画の売上根拠は、どう書けば金融機関に説明できますか?
「売上○%増」ではなく、「新規取引先を年○社、1社あたり○円」「問い合わせ月○件、受注率○%、1件平均○円」のように、件数と単価に分けて書きます。件数は毎月数えられるので、計画と実績を並べて説明でき、足りないときにどの数字を動かすかも示せます。相手(誰に売るか)と入口(どこで出会うか)を併記すると、根拠としてさらに通りやすくなります。
外部のマーケターを取引先に紹介するとき、金融機関の担当者は何をすればよいですか?
最初の面談に同席することが一番効きます。経営者が外部に何を話し、外部が何を聞いたかを把握できるので、計画の売上根拠にそのまま使えます。同席の際は、外部が最初に施策ではなく「何が選ばれている理由か」を聞くかどうか、提案が作って終わりではなく納品後に何を数えるかまで書いてあるか、紹介手数料の有無、報告が担当者にも届く形かを確認してください。
外部の費用は、取引先のどの予算で持つのが現実的ですか?
3つの形があります。補助金で「作る費用」を軽くする形、経営改善計画や事業計画の中に「動かす費用」として組み込む形、顧問契約で月額に分ける形です。支援先では、金融機関の紹介と申請サポートで補助金を使い、月額の枠に収めた例があります。どの形でも、納品後に動かす費用を先に計画に入れておくことが大切で、そこが抜けると半年後に止まります。
事業承継やM&Aの後、売上を落とさないために最初にやることは何ですか?
「先代の時代に、何が選ばれている理由だったか」を言葉にすることです。承継後に顧客が離れるのは商品が変わったからではなく、先代と顧客の関係が引き継がれていないからです。選ばれている理由を新しい経営者の言葉にし、それを営業資料やホームページなどの受け皿に載せる。あわせて、採用が必要な会社では経験者に向けた見せ方を整えます。M&Aの資金を支援した金融機関にとっては、融資の回収に直結する後工程です。
取引先の売上の話を、面談の場で一緒にしませんか。
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