マーケティング予算はどう決めるか|売上比率ではなく「回収」で考える

「マーケティングに、いくら使えばいいのか」。中小企業の経営者から受ける相談で、最初に出てくる質問の一つです。調べると「売上の5%」「10%」といった目安が並びますが、自社に当てはめるとしっくり来ず、結局は制作会社や媒体の見積もりに合わせて使ってしまう。そんな会社が少なくありません。

この記事では、売上比率の目安を踏まえたうえで、「何を取り戻すための投資か」から予算を逆算する考え方をまとめました。固定費と変動費の分け方、回収期間の見方、補助金や季節との付き合い方まで、支援現場で実際に使っている順番で書いています。

この記事の要点

  • 「売上の○%」は出発点にはなるが答えにはならない。予算は「1件の顧客が生む粗利×目標件数」から逆算する
  • 固定費(人・顧問・制作)と変動費(広告)を分けて持つ。止められる費用と止められない費用は、決め方が違う
  • 回収は6か月〜1年で見る。削るときは代わりの導線を先に用意し、年1回決めて月1回見るだけの形にする

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マーケティング予算は、この4ステップで「回収できる額」になる

1. 目安を知る

売上比率の相場は出発点。業種と段階でどれだけずれるかを知る

2. 回収から逆算する

1件の顧客が生む粗利×目標件数で、使っていい上限を出す

3. 固定費と変動費に分ける

人・顧問・制作は固定費、広告は変動費。別々に決める

4. 年1回決め、月1回見る

回収期間は6か月〜1年。獲得単価と回収の進みだけを追う

目次

「売上の○%」が答えにならない理由

売上比率の目安は、まったく役に立たないわけではありません。自社が世間の相場からどれくらい離れているかを知る物差しにはなります。ただ、その数字をそのまま予算にすると、使い方の判断ができなくなります。まずは目安の中身から見ていきます。

目安の数字はあるが、業種と段階で倍以上ずれる

一般的に言われる目安は、BtoCの小売やサービス業で売上の5〜10%前後、BtoBの製造業や建設業で1〜3%前後です。立ち上げ期や新規事業では、それより高い比率を数年続ける会社も珍しくありません。業種が違えば数倍、同じ業種でも成長段階が違えば倍以上ずれる数字です。

さらに、この比率には「何を含めるか」の問題があります。広告費だけなのか、ホームページや印刷物の制作費も入れるのか、担当者の人件費や外部の顧問料はどうか。含める範囲が違えば、同じ会社でも2%にも8%にもなります。目安から自社の予算は出てきません。

比率で決めると「使い切る」か「削る」しかなくなる

比率で予算を決めた会社で起きるのは、二つのどちらかです。一つは、枠があるから使い切ること。期末に残った予算で、必要かどうか分からない広告や印刷物を発注します。もう一つは、売上が落ちた年に比率どおり削ることで、売上を取り戻すための投資を、売上が落ちたという理由で減らしてしまいます。

どちらも、予算が「結果として何を取り戻すか」とつながっていないために起きます。比率は過去の売上から計算されるので、これから何を得るかという問いには答えられません。予算を決める起点を、過去の売上から未来の回収に変える必要があります。

予算が決まらない会社で起きていること

相談に来る会社の多くは、予算を決めていないのではなく、決められないまま個別に使っています。ホームページの見積もりが来たら払い、求人媒体の営業が来たら払い、気づけば年間で相当な額になっている。ところが「マーケティング予算はいくらですか」と聞くと、答えられません。

マーケター歴27年、事業会社と支援側の両方で予算に関わってきて感じるのは、金額の大小より「一度も合計していない」ことが問題だということです。合計していないから、効いていない費用を止められず、効いている費用を増やせない。最初の作業は、いま使っている額を全部書き出すことです。

予算は「何を取り戻すか」から逆算する

使っている額を書き出したら、次は「使っていい上限」を出します。使うのは売上比率ではなく、1件の顧客が生む粗利です。3つの数字があれば、経営者が自分で出せます。

1件の顧客が生む粗利を先に出す

最初の数字は、新しい顧客が1件増えたときに、取引が続く期間で生む粗利です。単発の商品なら1回分の粗利、リピートがある業種なら平均の継続期間を掛けます。たとえば月3万円の粗利で平均2年続くなら、1件あたり72万円です。この数字を、まず経営者が把握します。

この粗利のうち、何割までを獲得に使ってよいかを決めます。継続型のビジネスなら2〜3割、単発型なら1割前後に置く会社が多いです。72万円の2割なら14万円強。これが「1件を獲得するために使ってよい上限」です。

目標件数×獲得単価=必要な投資額

二つ目の数字は、今年あと何件の顧客が必要かです。売上目標から既存顧客の見込みを引けば出ます。三つ目は、1件の獲得に実際にいくらかかっているか。広告なら管理画面の数字、紹介や営業なら使った費用を件数で割った額です。

目標件数に獲得単価を掛けた額が、必要な投資額です。年12件が必要で、1件あたり8万円かかっているなら96万円。先ほどの上限(14万円×12件=170万円弱)に収まっていれば、投資として成り立ちます。獲得単価が上限を超えているなら、予算を増やす前に獲得の方法を変える必要があります。

支援先の例:「法人1社で年50万円、毎年1社ずつ」という決め方

地方の農業法人の支援で、経営者が最初に口にした目標は「法人の取引先を1社開拓すると年間50万円ほどになる。それを毎年1社ずつ積み上げたい」でした。売上比率の話は一度も出ていません。1社の価値と、無理なく受け入れられる増え方が、最初から決まっていました。

この決め方なら、予算は自然に出ます。年50万円が数年続く取引先を1社増やすために、いくらまでなら使えるか。営業資料や商品の言語化にかける費用は、その範囲で決めればよいのです。急拡大を望まない理由も「現場が追いつかないから」と明確で、予算の上限と現場の受け入れ能力がそろっていました。

固定費と変動費に分ける:人・顧問・制作と、広告

使っていい上限が出たら、その中身を2つに分けます。止められない費用(固定費)と、止められる費用(変動費)です。同じ「マーケティング費」でも、この2つは決め方も見直し方もまったく違います。混ぜたまま一つの予算にすると、広告を止めたいときに人件費まで議論になり、判断が重くなります。

固定費:人を雇うか、外部と組むか

固定費の代表は、マーケティング担当者の人件費と、外部の顧問や支援会社への月額費用です。どちらも毎月出ていき、すぐには止められません。中小企業では、専任を1人雇うより外部と月額で組む方が総額を抑えられ、退職のリスクもない、という判断になることが多いです。

ただし、外部と組む場合も最低限の期間は固定費として覚悟が要ります。戦略を立てて施策を動かし、数字が出るまでには時間がかかるからです。当社でも顧問契約は6か月からとしています。3か月で判断したいという相談もありますが、それは広告など変動費の話です。

変動費:広告は「止められる費用」だから、小さく始めて数字で増やす

広告費は、翌日にでも止められる変動費です。だからこそ、最初から年間予算を確定させる必要はありません。月3万円でも5万円でも、まず小さく出して獲得単価を測り、上限に収まっているなら増やし、収まらないなら止めるか作り直す。広告の予算は「決める」ものではなく「数字で育てる」ものです。

支援先のセミナー集客の広告運用では、申込1件あたりの目標を5,000円と決めて動かしていました。ある時期に1万円近くまで悪化したので、予算を足すのではなく、配信先と訴求を組み直しました。目標の獲得単価を先に決めておけば、悪化したときに「増やす」ではなく「直す」という判断が自然に出ます。

「作る費用」と「動かす費用」を分けて持つ

もう一つ、分けておきたいのが「作る費用」と「動かす費用」です。ホームページや会社案内、動画などの制作費は一度きりの投資で、作っただけでは回収が始まりません。動かす費用、つまり広告や発信、更新のための費用があって初めて、制作費は回収に向かいます。

よくあるのは、制作費だけを用意して運用費をゼロにしてしまうケースです。立派なホームページができたのに、誰も見に来ない。予算を組むときは、制作費と同じくらいの額を、その後1年間の「動かす費用」として取っておくことを勧めています。

回収期間の目安と、見直しのタイミング

予算を回収で考えると、次に出てくるのが「いつまでに回収できていればいいのか」という問いです。ここが曖昧だと、1か月で成果が出ないと焦って止めるか、何年も効いていない費用を払い続けるかのどちらかになります。

回収は6か月〜1年で見る。月単位で判断しない

マーケティング投資の回収は、6か月から1年で見るのが現実的です。広告は数週間で数字が出ますが、問い合わせから受注、受注から粗利の確定までを含めると、投資が戻るのは半年先です。検索やSNSからの流入は、さらに時間がかかります。

そのため、月単位で「効いた・効かない」を判断しないことです。月に見るのは回収の結果ではなく途中経過、つまり獲得単価と、問い合わせや商談の件数です。これが目標の範囲に入っていれば回収は後からついてきますし、入っていなければ半年を待たずに中身を直します。

支援先の例:求人媒体に月十数万円、応募は1人

地方の処理業の会社では、求人媒体に月十数万円を使っていました。昔は1回の募集で20〜30人の応募があったのが、今は1人。それでも、媒体の営業が来るたびに契約を更新し、合計を誰も見ていませんでした。

この会社に必要だったのは、媒体費を増やすことではなく、媒体から来た人が見る受け皿を整えることでした。15年前のホームページはスマホで見られず、仕事の中身も社員の顔も伝わりません。媒体費の数か月分で作り直せる受け皿がないまま、入口にだけ払い続けていた形です。

合計を出して固定費と変動費に分けたからこそ、見えた偏りでした。

削るときは、代わりの導線を先に用意する

逆に、削って失敗する例もあります。予約制のサロンでは、大手の予約サイトを費用対効果が合わないという理由で解約しました。判断そのものは間違っていません。しかし代わりの導線を用意しないまま止めたため、新規のお客様が激減し、月に数人と紹介だけになってしまいました。

効いていない費用を止めるのは正しい。ただし、止める費用が「唯一の入口」なら、先に次の入口を作ってから止めます。自社のホームページやGoogleビジネスプロフィールが育ってから、媒体費を落とす。順番を間違えると、削った額より大きな売上を失います。

補助金・季節・資金繰り:中小企業ならではの予算の組み方

ここまでの考え方は、大企業でも中小企業でも同じです。ただ、中小企業には固有の事情があります。補助金が使えること、繁忙期と閑散期の差が大きいこと、そして資金繰りに余裕がないことです。この3つを予算にどう織り込むかで、同じ額でも効き方が変わります。

補助金は「費用を軽くする」もので「予算の代わり」ではない

ホームページ制作や販促物に補助金を使う会社は多く、当社の支援先でも補助率8割、上限数十万円といった制度で進める案件があります。自己負担が2割で済むなら回収のハードルは大きく下がるので、使えるものは使うべきです。

ただ、補助金は「作る費用」を軽くしてくれるだけで、「動かす費用」や作った後の年間予算を用意してはくれません。補助金で作って運用費はゼロ、という形は、先ほどの「制作費だけ用意して運用費ゼロ」と同じ失敗です。申請書に書く計画は、採択されるためではなく、採択後に本当に動かす計画として書いておくことです。

繁忙期・閑散期で配分を変える

年間予算を12で割って毎月同じ額を使うのは、中小企業には合いません。先ほどの農業法人では、収穫期の2か月半は現場が手一杯で、営業活動がまったくできません。この時期に広告や営業資料の費用を使っても、受け入れる余力がないのです。逆に、注文分だけ収穫できる品種の時期は、営業に時間を使えます。

サロンや観光業では、12月が閑散期になる地域もあります。閑散期の直前に発信を厚くし、繁忙期は受け皿の整備に回す。こうした配分は、現場を知っている経営者にしか決められません。年間の総額を決めたら、月ごとの配分は現場の暦に合わせて経営者が決める部分です。

金融機関に説明できる形にしておく

回収から逆算した予算は、そのまま金融機関への説明資料になります。「売上目標まであと何件必要で、1件いくらで獲得できる見込みがあり、年間いくら使う」。この3行で、経営改善計画や融資の相談で問われる「売上の根拠」に答えられます。回収とつながった額は、金融機関にも「費用」ではなく「投資」に見えます。

経営者が年1回決めて、月1回見るだけでいい

最後に、ここまでの話を経営者の手間に落とします。マーケティング予算は、細かく管理する必要はありません。年に1回3行で決めて、月に1回2つの数字を見る。それだけで、使い切りも削りすぎも防げます。

年間予算は3行で決める:固定費・変動費・試す枠

1行目は固定費で、担当者か外部の顧問か、制作に今年いくら使うか。2行目は変動費で、広告に目標の獲得単価の範囲で最大いくらまで使うか。3行目は試す枠で、新しい媒体や施策を小さく試すための全体の1〜2割程度の予算です。この3行で年間予算は決まります。

試す枠を別に持つのは、本番の予算を実験で食いつぶさないためです。新しいことは、たいてい最初はうまくいきません。試す枠の中で失敗し、効いたものだけを翌年の変動費に昇格させる。この仕組みで、予算は年々賢くなります。

月1回見る数字:獲得単価と回収の進み

月に1回見るのは、1件の獲得にいくらかかったか(獲得単価)と、年間の目標件数に対していま何件か(回収の進み)の2つです。クリック数やフォロワー数は、担当者や外部が見る数字で、経営者が見る数字ではありません。この2つが目標の範囲なら続ける、外れていれば中身を直す。判断はそれだけです。

100社以上の支援で見てきた中で、マーケティングが回っている会社に共通するのは、予算の額ではなく、この2つの数字を経営者自身が毎月見ていることです。額が小さくても、回収とつながっていれば投資は育ちます。

まずは、いま使っている額を全部書き出し、1件の顧客が生む粗利を出してみてください。売上比率では見えなかった「使っていい上限」と「偏り」が、そこから見えてきます。

よくある質問

マーケティング予算の目安は売上の何%ですか?

一般的な目安は、BtoCの小売・サービス業で売上の5〜10%前後、BtoBの製造・建設業で1〜3%前後、立ち上げ期や新規事業ではそれ以上とされています。ただし業種・成長段階・何を含めるかで倍以上ずれるので、目安は「自社が相場からどれだけ離れているか」を知る物差しにとどめ、実際の予算は1件の顧客が生む粗利と目標件数から逆算してください。

中小企業は、広告宣伝費をどのくらい使っているものですか?

統計上の平均は業種で大きく異なり、同じ業種でも「広告費だけ」か「制作費・人件費・顧問料を含むか」で数倍変わります。他社の平均より大切なのは、自社がいま使っている額を全部合計することです。ホームページ、求人媒体、印刷物、外部への支払いを書き出すと、合計を一度も見ていなかった会社がほとんどで、そこから偏りが見えてきます。

マーケティング投資の回収期間は、どのくらいで見ればいいですか?

6か月から1年が目安です。広告は数週間で数字が出ますが、問い合わせから受注、受注から粗利の確定までを含めると半年先になり、検索やSNSからの流入はさらに時間がかかります。月単位では回収の結果ではなく途中経過(獲得単価と問い合わせ・商談の件数)を見て、目標の範囲なら続け、外れていれば半年を待たずに中身を直してください。

予算が少ない場合、何から使うべきですか?

先に「受け皿」を整え、次に「止められる費用」で小さく試す順をお勧めします。受け皿とは、ホームページやGoogleビジネスプロフィールなど、問い合わせを受け取る場所です。受け皿がないまま広告や媒体にお金を使うと、入口だけに払い続けることになります。受け皿ができたら、月数万円の広告で獲得単価を測り、上限の中に収まるものだけを増やしていきます。

マーケティングの顧問やコンサルの費用は、固定費として組むべきですか?

はい、固定費として組みます。戦略を立てて施策を動かし、数字が出るまでには時間がかかるため、最低でも半年は続ける前提で予算に入れてください(当社の顧問契約も6か月からです)。専任の担当者を雇うより総額を抑えられ、退職のリスクもないため、中小企業では外部と月額で組む形が合うことが多いです。一方、広告費は止められる変動費として別に持ち、顧問料と混ぜないことが大切です。

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